「夏になると、なぜか毎年だるい」
「朝起きた時点で、もう疲れている」
「頭痛やめまいが増える」
そんな声を、夏になると本当によく耳にします。
そしてその多くが、「夏バテだから仕方ない」で片づけられてしまいます。
ですが、これらの不調の背景には自律神経(じりつしんけい)への負担が関わっている可能性があります。この記事では、夏に自律神経が疲れやすくなる理由を、専門用語をかみくだきながら、研究で分かっていることをもとに解説します。
この記事の結論(先にまとめ)
- 自律神経は、体温を一定に保つ「調節役」を担っている
- 夏は「暑さ・エアコンとの温度差・寝苦しさ・脱水・高い湿度」の5つが同時に押し寄せる
- そのため、自律神経の仕事量が一年でもっとも増えやすい季節になる
- 当院でも、夏はぎっくり腰・肩こり・頭痛のご相談が増える
- 生活習慣の工夫で、負担そのものを減らせる余地がある
そもそも自律神経とは?
自律神経とは、自分で意識しなくても身体を動かし続けてくれる「自動運転システム」のことです。
たとえば、次のような働きはすべて自律神経が担当しています。
- 心臓を動かす
- 呼吸のペースを整える
- 体温を一定に保つ
- 汗をかく
- 血圧を調整する
- 胃や腸を動かして消化する
眠っている間も止まることなく、24時間ずっと働き続けています。
そしてこの司令塔は、脳の視床下部(ししょうかぶ)という場所にあります。体温のセンサーと調節スイッチが集まっている、いわば「体温のコントロールルーム」です[3]。
夏に自律神経が疲れやすくなる5つの理由
理由① 体温調節に、ずっと力を使い続けている
私たちの身体の内側の温度(深部体温=しんぶたいおん。脇の下で測る体温より少し高く、およそ36.5〜37℃前後)は、外がどんな気温でもほぼ一定に保たれています。
ところが夏は、気温が35℃を超える日も珍しくありません。すると身体は、深部体温を上げすぎないために次のような反応を続けます[2][4]。
- 汗を出して、蒸発する際の気化熱で身体を冷やす
- 皮膚の血管を広げて、血液から熱を外へ逃がす
- 心拍数を増やして、皮膚まで血液を多く送る
これらはすべて自律神経の仕事です。
自律神経はもともと24時間働いていますが、夏はその仕事量が一気に増える。ここが大きなポイントです。
理由② エアコンとの温度差を、一日に何度も往復する
外は35℃、室内は25℃。
この10℃以上の差を、通勤や買い物のたびに何度も行き来します。
暑いところでは血管を広げて熱を逃がし、涼しいところでは血管を縮めて熱を逃がさないようにする。この切り替えを繰り返すたびに、自律神経は調節の指令を出し続けることになります[3][4]。
スイッチのオンオフを一日に何度も繰り返すようなもので、これが負担として積み重なっていきます。
理由③ 寝苦しさによる睡眠不足
人は、深部体温が下がるタイミングで眠りに入りやすくなります[1]。夜になると手足がぽかぽかしてくるのは、身体の中の熱を手足から逃がして深部体温を下げているサインです。
ところが暑い夜は、この熱が逃げにくくなります。その結果、
- 寝つきが悪くなる
- 夜中に目が覚める回数が増える
- 深い眠り(徐波睡眠)やレム睡眠が減る
といった状態になりやすいことが、研究でも報告されています[5][6]。
とくに湿度が高い暑さは、睡眠中の身体への熱の負担をさらに大きくすることが分かっています[5]。
そして睡眠が足りないと、翌日の自律神経のはたらきにも影響が出ます。すると、また夜眠りにくくなる——この悪循環が、夏の不調が長引く大きな理由のひとつです。
理由④ 脱水と、塩分(ナトリウム)の不足
汗をかくと、水分と一緒にナトリウム(塩分の主成分)も失われます[2]。
このとき水だけをたくさん飲むと、体内の塩分がさらに薄まってしまい、かえって体調を崩すことがあります。汗をたくさんかいた日は、水分と塩分の両方を補うことが大切です。
脱水が進むと、身体の中では次のようなことが起こります[2]。
- 血液の量が減る
- 少ない血液を全身に届けるため、心臓の負担が増える
- 血圧が変動しやすくなる
その結果として、めまい・頭痛・動悸(どうき=心臓がドキドキする感じ)・だるさなどが起こりやすくなります。
理由⑤ 日本の夏ならではの「高い湿度」
意外と見落とされがちですが、日本の夏の負担を大きくしているのは気温より湿度とも言えます。
汗は、かいた瞬間ではなく蒸発するときに身体の熱を奪って冷やします。ところが湿度が高いと、空気中にすでに水分が多いため、汗が蒸発しにくくなります[4]。
つまり、汗をかいているのに身体が冷えない。
すると身体は「まだ足りない」と判断してさらに汗を出そうとし、水分と塩分だけが失われていきます[2][4]。
同じ35℃でも、からっとした暑さと蒸し暑さで疲れ方がまるで違うのは、このためです。
自律神経のバランスが崩れたときに出やすい不調
自律神経は全身を支配しているため、負担がかかったときに出る不調も全身にまたがります。よく聞かれるのは次のようなものです。
- 肩や首がこわばる感じ
- 頭が重い、頭痛
- めまい、ふらつき
- 耳鳴り
- 胃腸の調子が悪い、食欲が出ない
- 動悸
- 寝つけない、眠りが浅い
- 一日中だるい、疲れが抜けない
- 腰が重い
- 集中力が続かない
「検査では異常なしと言われたけれど、たしかにつらい」
そういうケースが夏に増えるのは、こうした背景があるからです。
当院で、夏に増えるご相談
ここからは、実際に施術の現場で感じていることをお伝えします。
当院では、夏になるとぎっくり腰・肩こり・頭痛のご相談が増えます。
意外に思われるかもしれません。腰痛は寒い季節のもの、というイメージが強いからです。ですが夏には、夏ならではの要因があります。
要因1:冷房による冷え
オフィスや車内で、冷気が同じ場所に当たり続ける。あるいは一日中冷えた室内で過ごす。夏はそうした環境が長時間続きます。
寒い環境で働く人ほど、首や肩の痛み・腰痛を報告する割合が高いことは、北欧で約3,800人を6年間追跡した研究でも示されています[7]。この研究は冷凍倉庫などの厳しい環境が対象ですが、「冷えた場所に長時間いること」が身体のこわばりや痛みと無関係ではない、という点は、夏の冷房環境を考えるうえでも参考になります。
要因2:湯船に入らず、シャワーで済ませてしまう
「夏は暑いから、シャワーだけ」
これは本当に多いです。私自身も気持ちはよく分かります。
ただ、日本で行われた研究では、湯船に浸かる2週間とシャワーだけの2週間を同じ人で入れ替えて比較したところ、湯船に浸かった期間のほうが、疲労感・ストレス・痛みの自覚が良好だったと報告されています[9]。
冷房で冷えた身体を温め直す機会が、夏はごっそり抜け落ちてしまう。ここは見落とされやすいポイントです。
要因3:その根っこにある、自律神経への負担
冷え、睡眠不足、水分と塩分の不足。これらはすべて、自律神経の仕事量を増やす要因です。
そして、慢性的な身体の痛みを抱えている方では、自律神経のバランスを反映する指標(心拍のわずかなゆらぎ=心拍変動)が低下している傾向があることが、複数の研究をまとめた系統的レビューで報告されています[8]。
ただし、ここは正直にお伝えしておきます。この分野の研究はまだ質にばらつきがあり、「自律神経の乱れが痛みの原因である」と言い切れる段階ではありません[8]。関連はある。けれど、どちらが先かは分かっていない。それが現在地です。
現場で感じていること
それでも施術をしていて思うのは、夏の不調は「腰だけ」「肩だけ」の問題として現れないということです。
眠りが浅い。身体が冷えている。湯船にも入っていない。
そこへ、いつもと変わらない何気ない動作が重なった瞬間に、腰が抜ける。
原因はひとつではありません。積み重なった負担が、限界を超えただけ。
お話を伺っていると、そういうケースがほとんどです。
だからこそ、痛みが出てからの対処だけでなく、その手前の生活を整えることに意味があると考えています。
今日からできる6つの工夫
1. エアコンを我慢しすぎない
「冷房は身体に悪い」と我慢して、かえって身体に熱をため込んでしまう方は少なくありません。設定温度を下げすぎず、風が直接身体に当たらないようにしたうえで、適切に使いましょう。
デスクや運転席で、同じ場所に冷気が当たり続けていないか。一度確認してみてください[7]。
2. 水分と塩分をセットで補う
のどが渇く前に、こまめに。汗を多くかいた日は、水だけでなく塩分も一緒に補給します[2]。
3. 睡眠時間を確保する
寝室は、就寝の少し前から冷やしておくのがおすすめです。眠りにつく時点で室温が下がっていると、深部体温が下がりやすくなります[5]。
4. 夏こそ、湯船に浸かる
シャワーだけで済ませず、38〜40℃程度の湯船に10分ほど浸かる。
入浴で一度温まった身体は、その後に熱を逃がしながら深部体温が下がっていくため、眠りに入りやすくなります[1][9]。
冷房で冷えた身体をリセットする意味でも、夏の入浴は効果的です。
5. 朝、光を浴びる
朝の光は、体内時計をリセットする合図になります。体内時計は深部体温のリズムとも連動しているため、朝の光が夜の眠りやすさにつながります[6]。
6. 冷たいものばかり摂らない
冷たい飲み物や食べ物が続くと、胃腸に負担がかかりやすくなります。温かい汁物などを一日のどこかに挟むと、バランスが取りやすくなります。
こんなときは、医療機関へ
夏の不調は「疲れかな」で済ませてしまいがちですが、次のような場合は自己判断せず、医療機関を受診してください。
- 今までに経験したことがないような強い頭痛がある
- 意識がもうろうとする、呼びかけへの反応がおかしい
- まっすぐ歩けない、手足に力が入らない、しびれがある
- 汗が出なくなり、身体が熱いのに汗をかいていない
- 吐き気や嘔吐で水分が摂れない
- 強い動悸や胸の痛みがある
- ろれつが回らない、言葉が出にくい
これらは熱中症や、脳・心臓の病気のサインである可能性があります。迷ったときは、まず医療機関にご相談ください。
よくある質問
Q. 夏バテと自律神経の乱れは同じものですか?
A. 完全に同じではありません。「夏バテ」は夏の不調をまとめて指す日常語で、正式な病名ではありません。その中身として、体温調節や睡眠、水分・塩分バランスへの負担が関わっていると考えられています。
Q. なぜ夏にぎっくり腰が増えるのですか?
A. 冷房による冷え、シャワーだけで入浴を済ませること、寝苦しさによる睡眠不足、水分不足などが重なりやすい季節だからだと考えられます。ひとつの原因というより、複数の負担が積み重なった結果として起きているケースが多い印象です。
Q. エアコンの設定温度は何℃がいいですか?
A. 一律の正解はありません。室内外の温度差が大きくなりすぎないようにしつつ、暑さを我慢しないことが基本です。湿度も同じくらい重要なので、除湿の活用も検討してください。
Q. どのくらいで元に戻りますか?
A. 個人差が大きく、一概には言えません。睡眠と水分・塩分の補給を整えると変化を感じる方もいますが、2週間以上つらさが続く場合は医療機関の受診をおすすめします。
まとめ
夏は、
- 暑さそのもの
- エアコンとの温度差
- 寝苦しさによる睡眠不足
- 脱水と塩分の不足
- 高い湿度
この5つが同時に重なる、特殊な季節です。
自律神経にとっては、一年でもっとも仕事量が増える時期といえます。
そしてその負担は、だるさや不眠だけでなく、腰や肩の痛みという形で現れることもあります。当院で夏にぎっくり腰や肩こりのご相談が増えるのは、おそらくそういうことなのだと考えています。
「夏だから仕方ない」と我慢し続けるのではなく、負担そのものを減らすという視点を持つこと。それが、夏を少しでも楽に過ごすための第一歩になります。
それでも、つらさが続くときは
ここまでお読みいただいて、「思い当たることがいくつもあった」という方もいらっしゃるかもしれません。
生活を整えることで軽くなる不調は、たしかにあります。
ただ、すでに痛みが出てしまっている場合、ご自身では気づきにくい負担のかかり方が積み重なっていることも少なくありません。冷えている場所、力が入りっぱなしになっている場所は、実はご本人が痛みを感じている場所とは違うところにあります。
当院では、今のお身体の状態をていねいに伺ったうえで、全身のつながりという視点から何ができそうかを一緒に考えていきます。
「こんなことで相談してもいいのかな」という小さな不安でも、どうぞ遠慮なくお寄せください。夏を乗り切るための選択肢のひとつとして、お役に立てれば幸いです。
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※この記事は健康に関する一般的な情報の提供を目的としたものであり、診断や治療を目的とするものではありません。お身体の変化には個人差があります。症状が続く場合は医療機関にご相談ください。
参考文献
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- Cerri M, Amici R. Thermoregulation and Sleep: Functional Interaction and Central Nervous Control. Comprehensive Physiology. 2021;11(2):1591-1604.
要約:睡眠と体温調節は互いに影響し合っている。睡眠の段階によって体温調節の反応が変化し、逆に暑さ・寒さの負荷は眠りの発生そのものを妨げる。脳内で睡眠を制御する回路と体温調節を制御する回路が部分的に重なっていることが、その背景にあると考察されている。
論文を読む(外部サイト) - Périard JD, et al. Exercise Under Heat Stress: Thermoregulation, Hydration, Performance Implications, and Mitigation Strategies. Physiological Reviews. 2021;101(4):1873-1979.
要約:暑さのなかで身体を動かしたときに起こる体温調節・水分バランス・パフォーマンスへの影響を包括的にまとめた大規模レビュー。発汗によるナトリウムの喪失と脱水が、血液量や循環にどのような負担をかけるかが詳しく述べられている。
論文を読む(外部サイト) - Morrison SF, Nakamura K. Central Mechanisms for Thermoregulation. Annual Review of Physiology. 2019;81:285-308.
要約:体温調節の司令塔である脳(視床下部など)の神経回路を解説した総説。皮膚のセンサーが受け取った温度情報が、発汗・血管の収縮と拡張・ふるえといった自律神経の反応へどのように変換されるかを示している。
論文を読む(外部サイト) - Cramer MN, Jay O. Biophysical Aspects of Human Thermoregulation During Heat Stress. Autonomic Neuroscience. 2016;196:3-13.
要約:暑熱下で人体が熱をやりとりする物理的なしくみ(放射・対流・蒸発)を整理した総説。湿度が高い環境では汗の蒸発による冷却が働きにくくなることが、この物理的な観点から説明されている。
論文を読む(外部サイト) - Okamoto-Mizuno K, Mizuno K. Effects of Thermal Environment on Sleep and Circadian Rhythm. Journal of Physiological Anthropology. 2012;31:14.
要約:日本の研究チームによる、温熱環境と睡眠の関係のレビュー。寝具や衣服を使う実生活に近い条件では、暑さが中途覚醒を増やし、深い睡眠とレム睡眠を減らすこと、さらに蒸し暑さがその負担を大きくすることが報告されている。
論文を読む(外部サイト) - Thermoregulation in Sleep Disorders—A Comprehensive Review. Journal of Clinical Medicine. 2026;15(8):2929.
要約:深部体温の変動、手足と体幹の温度差、メラトニンのリズムという3つの観点から、睡眠と体温調節の関係を最新の知見も含めて整理した総説。
論文を読む(外部サイト) - Lewis C, Stjernbrandt A, Wahlström J. The association between cold exposure and musculoskeletal disorders: a prospective population-based study. International Archives of Occupational and Environmental Health. 2023;96:565-575.
要約:北欧の労働者3,843人を約6年間追跡した前向き研究。仕事中に寒さにさらされる度合いが高い人ほど、首肩の痛み・腰痛・下肢への放散痛を報告する割合が高かった。冷えは筋骨格系の痛みのリスク要因として認識されるべきだと結論づけている。
論文を読む(外部サイト) - Rampazo ÉP, et al. Heart rate variability in adults with chronic musculoskeletal pain: A systematic review. Pain Practice. 2024;24(1):211-230.
要約:慢性的な筋骨格系の痛みを持つ成人と、痛みのない人の心拍変動(HRV=自律神経のバランスを反映する指標)を比較した系統的レビュー。痛みを持つ群では交感神経が優位で副交感神経のはたらきが低下する傾向が見られた。ただし対象疾患や測定方法にばらつきがあり、著者らは確定的な結論は出せないと明記している。
論文を読む(外部サイト) - Goto Y, Hayasaka S, Kurihara S, Nakamura Y. Physical and Mental Effects of Bathing: A Randomized Intervention Study. Evidence-Based Complementary and Alternative Medicine. 2018;2018:9521086.
要約:健康な成人38人を対象に、2週間の湯船入浴(40℃・10分)と2週間のシャワーのみの生活を入れ替えて比較したランダム化研究。湯船に浸かった期間のほうが、疲労感・ストレス・痛み・笑顔についての自己評価が有意に良好だった。
論文を読む(外部サイト)
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