「腰が重い」「朝起きると腰が固まっている」「長く座っているとつらい」。マッサージを受けた直後は楽になるのに、しばらくするとまた元に戻ってしまう。そんな経験はありませんか。
こうした腰の痛みが3ヶ月以上続いている場合、医学的には「慢性腰痛」に分類されます。WHO(世界保健機関)や日本の腰痛診療ガイドラインでも、発症から3ヶ月以上続く腰痛を慢性腰痛と定義しています[1][3]。
最初は「そのうち治るだろう」と考える方がほとんどです。湿布を貼ったり、痛いところを自分で揉んだり、マッサージ器で押したりしながら、なんとかやり過ごしている。しかし、腰痛が長引いている場合、痛い場所だけを見ていても原因にたどり着けないことが少なくありません。
痛い場所と、原因がある場所は同じとは限らない
腰が痛いと、多くの人は「腰そのものが悪い」と考えます。しかし実際には、背中や肋骨まわり、お腹の奥、股関節など、離れた場所の硬さや動きの悪さが関係していることがあります。
人の体は、筋肉・神経・血管・内臓がバラバラに存在しているわけではありません。それらを包み、支え、つなげている組織があり、一般には「筋膜」と呼ばれます。ここでは「ファシア」と表現します。
ファシアは体の表面だけでなく、深い部分にも広がっています。そのため、腰が痛いからといって、原因も腰だけにあるとは限りません。お腹の奥の硬さや腸まわりの癒着、肋骨の内側の動きの悪さ、背骨の奥の緊張などが、神経のつながりや体の連動を通して「腰の痛み」として感じられることがあるのです。
ぎっくり腰の後に残る、見えない負担
ファシアの癒着は、ある日突然できるものではありません。スポーツで無理をした、重い物を持った、長時間同じ姿勢で仕事をした、過去にぎっくり腰をした、痛みをかばいながら生活していた。こうした負担の積み重ねによって腰まわりや体の深部に炎症が起こり、その結果としてファシアの滑りが悪くなったり、癒着のような状態が残ったりすることがあります。
炎症が起きると、体はその部分を守ろうとして筋肉を固めます。いわば、体が非常ブレーキをかけている状態です。痛みが引くと「治った」と感じる方が多いのですが、痛みが消えたことと、体の奥の動きが完全に戻ったことは、必ずしも同じではありません。
ぎっくり腰のあとにファシアの滑りの悪さや癒着のような状態が残っていると、数ヶ月後、数年後になって、慢性的な腰の重だるさや痛みとして現れることがあります。
痛い腰を強く揉み続けると、逆効果になることも
注意していただきたいのが、痛い腰を強く揉み続けることです。マッサージ器でゴリゴリ押す、拳で腰を叩く、痛い場所を何度も強く揉む。その場では気持ちよく感じるかもしれませんが、炎症やファシアの癒着が関係している場合、強い刺激がかえって体を守ろうとする反応を強めてしまうことがあります。
その結果、「揉んだ時だけ楽」「翌日にはまた重だるい」「だんだん強い刺激でないと効かない」という悪循環に入ってしまうことがあります。
慢性腰痛を本当に改善していくためには、痛い場所を力任せに押すのではなく、なぜそこに負担が集まっているのかを見極め、体全体のつながりの中で原因を探っていく視点が大切です。
慢性腰痛セルフチェックリスト
次の項目に複数当てはまる方は、体の奥のファシアの癒着や動きの悪さが関係しているかもしれません。
- 腰の痛みが3ヶ月以上続いている
- 一度よくなっても、何度も腰痛を繰り返す
- 過去にぎっくり腰をしたことがある
- 朝起きた時に腰が重い、固まっている感じがする
- 長く座っていると腰がつらくなる
- 立ち上がるときに腰が伸びにくい
- 腰を揉んでもその場だけでまた戻る
- マッサージ器で強く押さないと楽にならない
- お尻や股関節、背中、肋骨まわりも硬い感じがする
- 病院で「大きな異常はない」と言われたが、痛みが残っている
WHOのガイドラインでは3ヶ月以上続く、または繰り返す腰痛を慢性腰痛として扱っています[2]。日本の腰痛診療ガイドラインでも同様に、発症から3ヶ月以上続く腰痛は慢性腰痛と分類されています[3]。チェックリストに当てはまる数が多い方は、時間が経てば自然に治る段階を過ぎて、慢性化している可能性があります。
当院の考え方
慢性腰痛は、腰だけの問題とは限りません。過去のぎっくり腰、炎症のあとに残った癒着、お腹の奥や肋骨まわりの硬さ、股関節や背中の動きの悪さ。体の深部に残ったファシアの滑りの悪さ。こうした要素が重なって、腰の痛みとして出ていることがあります。
だからこそ、痛い腰を力任せに揉むだけでなく、体全体のつながりを見ながら、どこに本当の負担が残っているのかを探ることが大切です。
当院では、強い刺激で無理に押すのではなく、深部のファシアの癒着や体の連動を丁寧に確認しながら、慢性的な腰の重だるさ・つらさの軽減を目指す施術を行っています。
「長年の腰痛だから仕方ない」「年齢のせいだから治らない」「異常なしと言われたから、もう我慢するしかない」。そう思っている方も、一度ご相談ください。あなたの腰痛が長引いている理由は、まだ見つかっていない体の奥にあるかもしれません。
まずは、これまでの経過や生活の中でのクセ、体の各部位のつながりを丁寧に確認するところから始まります。「揉んでもその場だけだった」「病院で異常なしと言われたのに痛みが残っている」という方こそ、一度体の状態を見せてください。
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すぐに病院を受診してほしい「危険なサイン」
腰痛の中には、緊急の医療対応が必要なケースもあります。次のような症状がある場合は、整体などではなく、まず医療機関を受診してください。
- 足に力が入らない、両足がしびれて進行している
- おしっこや便の感覚がおかしい、我慢がきかない
- お尻や太ももの内側(会陰部)がしびれている、感覚がない
これらは、NICE(英国国立医療技術評価機構)などの臨床ガイドラインで「レッドフラッグ(危険な兆候)」とされ、神経の緊急障害のサインである可能性があります[6]。思い当たる症状がある方は、迷わず病院へ向かってください。
よくある質問
Q. 慢性腰痛は、もう一生治らないのですか?
A. そうとは限りません。慢性腰痛は「腰そのもの」だけでなく、体の深部のファシアの癒着や連動不良が関係していることが多く、そこに丁寧にアプローチすることで、つらさが軽減していくケースもあります。まずは原因を見極めることが大切です。
Q. マッサージに行っても意味がないのですか?
A. マッサージ自体が無意味というわけではありません。ただし、強い刺激で痛い場所を押し続けると、体を守ろうとする反応が強まり、かえって悪循環に入ってしまうことがあります。刺激の強さよりも、負担の根本原因を探る視点が重要です。
Q. どのくらいの施術で改善しますか?
A. 症状の経過年数や原因の複雑さによって個人差があります。重症専門整体心楽では、できるだけ少ない回数で改善を目指す方針で施術を行っています。まずはご相談ください。
まとめ
慢性腰痛は、腰そのものだけでなく、体の深部にあるファシアの癒着や連動不良が関係していることがあります。痛い場所を力任せに揉み続けても、根本的な原因には届かないことが多く、かえって悪循環に入ってしまうこともあります。
3ヶ月以上続く腰痛、繰り返す腰痛でお悩みの方は、体全体のつながりの中で原因を探っていく視点を持つことが、改善への近道になります。
参考文献・エビデンス
- WHO「Low back pain」ファクトシート
腰痛を発症からの期間で急性(6週間未満)・亜急性(6〜12週間)・慢性(12週間超)に分類することを示しています。
https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/low-back-pain - WHO「成人の慢性一次性腰痛に対する非外科的管理ガイドライン」(2023年)
慢性腰痛を、3ヶ月を超えて続く、または繰り返す腰痛として扱い、運動療法など非外科的な管理の重要性を示したガイドラインです。
https://www.who.int/publications/i/item/9789240081789 - 日本整形外科学会・日本腰痛学会「腰痛診療ガイドライン2019(改訂第2版)」
腰痛を発症からの期間で急性(4週間未満)・亜急性(4週間以上3ヶ月未満)・慢性(3ヶ月以上)の3つに分類し、日本国内における腰痛診療の指針を示した診療ガイドラインです。
https://minds.jcqhc.or.jp/summary/c00498/ - Kondrup F, et al. 「The deep fascia and its role in chronic pain and pathological conditions: A review」Clinical Anatomy, 2022年
深部ファシアは骨・筋肉・神経・血管を包む連続した組織であり、慢性腰痛をはじめとする複数の慢性痛と深く関わっていることをまとめたレビュー論文です。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35417568/ - Wu Z, et al. 「Myofascial Release for Chronic Low Back Pain: A Systematic Review and Meta-Analysis」Frontiers in Medicine, 2021年
慢性腰痛に対する筋膜リリースの効果を検証したシステマティックレビュー・メタ解析で、痛みや身体機能の改善効果が確認されています。
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8355621/ - Ożóg P, et al. 「Effects of Isolated Myofascial Release Therapy in Patients with Chronic Low Back Pain: A Systematic Review」Journal of Clinical Medicine, 2023年
筋膜リリース単独療法が慢性腰痛の痛みや機能に与える影響を検討したシステマティックレビューです。
https://www.mdpi.com/2077-0383/12/19/6143 - NICE(英国国立医療技術評価機構)臨床知識要約「Sciatica: Red flag symptoms and signs」
排尿・排便障害や会陰部のしびれ、進行する両足の脱力などを、緊急対応が必要な「レッドフラッグ(危険な兆候)」として位置づけている臨床情報です。
https://cks.nice.org.uk/topics/sciatica/diagnosis/red-flag-symptoms-signs/(英国内からのみ閲覧可能な場合があります)
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