8月21日「心楽コラム」更新しました!

坐骨神経痛、なぜお尻をほぐしても元に戻るのか?

「お尻から太ももの裏が痛い」「ふくらはぎがビリビリしびれる」「病院では坐骨神経痛と言われた」。五島の当院でも、この相談は本当に多いです。

そして、それと同じくらい多いのが「お尻や太ももの裏をほぐしてもらうとその日は軽い。でも数日で元に戻る」という声。今日はその理由を、私自身がこれまでの臨床で考え方を変えてきた経緯も含めて書きます。

結論だけ先に知りたい方へ(3行まとめ)

  • 坐骨神経痛は病名ではなく、腰やお尻から脚にかけての痛み・しびれをまとめた「症状の呼び名」
  • 背景には椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症、梨状筋症候群など複数の状態があり、原因は一つに絞れない
  • 私も開業当初は梨状筋や坐骨神経の走行中心だったが、その場で軽くなっても戻る方がいた
目次

そもそも坐骨神経痛は「病名」ではありません

坐骨神経痛は、一つの病気の名前ではありません。腰やお尻から脚にかけて走る痛みやしびれの「呼び名」です。同じ症状の背景には、腰椎椎間板ヘルニア、腰部脊柱管狭窄症、腰椎すべり症、梨状筋症候群など、いくつもの状態があります。

たとえば腰椎椎間板ヘルニアの診療ガイドラインでは、飛び出した椎間板が神経を押す機械的な刺激だけでなく、炎症などの化学的な刺激も症状に関わるとされています。さらに、MRIでヘルニアが写っていたとしても、画像だけで痛みの原因を決めるのではなく、症状や神経学的な所見と合わせて判断することが重要だと示されています。

つまり医学の世界でも、「ここが押されているから、全部これが原因」と言い切れるほど単純な話ではないわけです。

「梨状筋が坐骨神経を圧迫している」は、間違いではない

整体院や治療院のサイトを見ると、こんな説明をよく見かけます。

お尻の奥にある梨状筋が硬くなり、坐骨神経を圧迫することで痛みやしびれが起こる

梨状筋はお尻の深いところにある筋肉で、そのすぐ近くを、人体でもとりわけ太い坐骨神経が通っています。硬くなる、神経を圧迫する、だから痛む。とても分かりやすい流れですし、「梨状筋症候群」という病態は実際に医学的にも報告されています。この考え方そのものが誤りというわけではありません。

梨状筋は、骨盤の中央から太ももの骨に向かって斜めに走っている、お尻の深い場所にある筋肉です。そのすぐ下を、人体でもとりわけ太い坐骨神経が通り抜けています。人によっては、神経が梨状筋の間を貫くように走っていることもあります。

つまり両者はもともと非常に近い位置関係にあり、梨状筋が硬くなれば神経が刺激されやすい構造になっている。だから「梨状筋が坐骨神経を圧迫する」という説明は、解剖学的にも筋が通っています。

ただ、坐骨神経痛を梨状筋だけで考えてしまうと、見落とすものがある。今の私はそう考えています。

私も開業当初は、坐骨神経だけをターゲットにしていました

坐骨神経痛の方が来られると、まずお尻の奥やハムストリングスを中心に施術する。実際それで「さっきより歩きやすいです」「脚が軽くなりました」と言っていただけることもありました。

ところが、しばらくすると「また元に戻ってきました」という方がいる。同じ場所をもう一度施術すると、また少し軽くなる。でも、また戻る。

ちゃんと緩めたはずなのに、なぜ戻るんだろう。当時はずっとそれが引っかかっていました。

鍵は「組織の滑り」でした

筋肉も筋膜も神経も、体の中でガチッと固定されているわけではありません。曲げる、伸ばす、歩く。そのたびに、隣り合った組織が少しずつ滑りながら動いています。

この滑りが悪くなると、本来スムーズに動くはずの場所が引っかかる。そして、その影響が離れたところまで伝わることがあります。

近年は超音波エコーでファシア(筋膜)を観察する取り組みが進んでいて、理学療法の分野でも、厚みだけを見るのではなく伸張性や滑走性の低下を評価し、痛みとの関係を捉える考え方が紹介されています。手の感覚で確かめてきたことと、非常によく重なる内容でした。

注射で剥がす「ハイドロリリース」も医療現場に広がっています

この「滑りを取り戻す」という発想は、実は整体だけのものではありません。

医療の世界では2010年代前半から、エコーの画面で硬く重なって見えるファシアを確認しながら、そこに生理食塩水などを注射して剥がしていく方法が行われるようになりました。ハイドロリリース(エコーガイド下fasciaリリース)と呼ばれ、今では整形外科やペインクリニック、総合診療の現場に広がっています。

理学療法の専門誌でも、この手技が医師をはじめとする医療従事者の間で広がりつつあることが報告されています。そして同時に、痛みの発生源と実際に痛みを感じている場所が離れている場合があるため、その発生源を探すには医師一人ではなく多職種で評価を持ち寄る必要がある、とも指摘されています。

痛い場所と、原因になっている場所は必ずしも一致しない。医療の現場でも、そういう前提で体が見られるようになってきているわけです。

もちろん注射は医療行為ですので、整体院で行うことはできません。心楽が行っているのは、あくまで手の感覚で滑走性を確かめながらのアプローチです。ただ、着目している場所そのものは同じだと考えています。

引っかかっている場所は、一人ひとり違います

心楽では施術のとき、アナトミートレインでいうDFL(ディープ・フロント・ライン)やSBL(スーパーフィシャル・バック・ライン)といった筋膜のつながりをたどりながら、手の感覚で滑走性を確認していきます。要は「ちゃんと滑って動いているか、どこかで引っかかっているか」を探すイメージです。

実際に確認すると、滑りが悪くなっている場所は本当に人それぞれです。

  • 太ももの奥
  • ふくらはぎ
  • 骨盤まわり
  • 背中・肋骨まわり
  • お腹の奥

痛みを感じているお尻や脚から、かなり離れた場所に強い引っかかりを感じることも珍しくありません。体は筋肉が一つずつバラバラに動いているのではなく、筋膜を通して全身がつながりながら動いているからです。

以前の私は症状から施術場所をある程度決めていました。今はまず全身の動きを確認し、筋膜のつながりをたどって引っかかりを探し、そこを一つずつリリースしていきます。ここが一番大きく変わった点です。

痛みが出ている場所ではなく、その痛みを生み出している根本原因の癒着を探すことが重要だと考えています。

その症状は、整体より先に医療機関へ

次のような場合は、整体よりも検査が優先です。

  • 急に脚の力が入りにくくなった
  • 排尿・排便がいつもと違う
  • 股のまわりの感覚がおかしい

当院では、整体で対応してよい状態なのかどうかも確認しながら、無理をせず体を見ることを大切にしています。

よくあるご質問

Q. 坐骨神経痛は必ず梨状筋が原因ですか?

いいえ。梨状筋症候群という病態は実際にありますが、椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症など、似た症状を起こす状態は他にもあります。原因を一つに決めつけないことが大切です。

Q. お尻をほぐしても戻るのはなぜですか?

痛みを感じている場所と、動きを邪魔している場所が別なことがあるためです。心楽では全身の筋膜のつながりをたどり、滑走性が落ちている場所を探していきます。

Q. 強く揉んだほうが効きますか?

心楽では強い刺激は使いません。痛いところを繰り返し押すのではなく、なぜ繰り返しているのかを体全体から確認していくやり方です。

Q. ハイドロリリース(筋膜リリース注射)と整体は何が違いますか?

ハイドロリリースはエコーで確認しながら薬液を注射する医療行為で、医療機関でしか受けられません。整体では注射は行わず、手の感覚で滑走性を確かめながらアプローチします。着目する場所は近いものの、手段と受けられる場所が異なります。

Q. 病院で手術しかないと言われました。相談できますか?

まずはご相談ください。ただし整体は医療行為ではありませんので、検査や診断が必要な状態と判断した場合は医療機関の受診をおすすめしています。

五島市で「戻ってしまう坐骨神経痛」にお悩みの方へ

「ほぐしてもらった日は楽なのに、また戻る」「腰やお尻をずっと施術してもらっているのに、脚の痛みやしびれを繰り返している」。そんな状態が続いているなら、一度、痛いところから離れて体全体を見てみる必要があるかもしれません。

当院では、出張施術にも対応しています。現在、出張費はいただいていませんので、重症で身動きできない痛みや痺れはご相談ください。坐骨神経痛だからといって、全員に同じ施術をすることはありません。これまでの経過を伺いながら実際に体を動かして確認し、その方にお身体に合わせたオーダーメードの施術を進めていきます。

どこで施術しても戻ってしまう。そんな方こそ、一度ご相談ください。

参考資料

1.日本整形外科学会・日本脊椎脊髄病学会 監修『腰椎椎間板ヘルニア診療ガイドライン2021 改訂第3版』南江堂、2021年
https://minds.jcqhc.or.jp/summary/c00645/
椎間板ヘルニアによる脚の症状には、機械的な圧迫だけでなく神経根への化学的刺激や炎症も関わること、画像所見のみで原因を判断せず症状・神経学的所見と合わせて診断することの重要性を参考にしました。

2.平山和哉「理学療法における超音波エコーの活用―適切な治療から予防へと繋ぐために―」『理学療法の歩み』33巻1号、2022年、16-21頁
https://www.jstage.jst.go.jp/article/mpta/33/1/33_16/_article/-char/ja/
エコーによりfasciaを観察でき、異常fasciaによる疼痛や伸張性・滑走性の低下の評価・治療に役立つとされている点を参考にしました。

3.長原正静ほか「梨状筋症候群の手術治療」『中部日本整形外科災害外科学会雑誌』48巻5号、2005年、905-906頁
https://www.jstage.jst.go.jp/article/chubu/48/5/48_5_905/_article/-char/ja/
梨状筋周辺で坐骨神経が刺激され症状が生じる病態が実在することを示す臨床報告として参考にしました(本文の閲覧には会員認証が必要です)。

4.鈴木茂樹・浅賀亮哉・銭田良博・木村裕明「エコーガイド下Fasciaリリースの治療効果―Fasciaの痛みの原因と多職種連携の必要性について―」『理学療法-臨床・研究・教育』26巻1号、2019年、3-7頁
https://www.jstage.jst.go.jp/article/ptcse/26/1/26_26-003/_article/-char/ja/
エコーガイド下Fasciaリリースが医療従事者の間で広がりつつあること、Fasciaが筋膜以外に腱・靭帯・脂肪などの結合組織も含む概念であること、発痛源と関連痛が離れている場合があり多職種での評価が重要とされている点を参考にしました。

5.一般社団法人日本整形内科学研究会(JNOS)用語集「ハイドロリリース」
https://www.jnos.or.jp/glossary/hydororelease
ハイドロリリースの定義と、同会が「筋膜リリース」という用語を原則使用していない理由を参考にしました。

※これらの研究やガイドラインは、心楽の施術方法そのものを証明するために掲載しているものではありません。臨床で考えるうえで参考になった医学的な知見としてご紹介しています。

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